見えていないものと、見たくないものと、見たつもり、のもの。 

トラックの救援物資を奪い合う人が昔の彼に似ていた


道に猫のなきがら ぼくはいつも そういうものを見ないようにする


お義父さん また梅雨の花 咲きました
あなたの好きな季節でしたね



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学者は世間を見たような気になる。 

もういまは惰性で笑う人形と
心理学者も見抜けないまま


抜け殻と霊媒師にさえ悟らせず
ただうなだれて諭されている


ぜんまいの いのちの終わりの ようです 神経症の メトロノームは



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少女の記憶 

闇夜の砂浜に打ちあげられた小さな潜水艦を見つけた


美しい水田のくにスーチーとかいう人の国 今日も雨降る


本籍が赤ちゃんポストであることを誇りて生きよ十七人の子



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レミングの行進 

カメルンの笛吹きを追いリクルートスーツの群れが踊りながらゆく



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忘れたいことを忘れられる仕組み 

スマトラの津波で死んだ人の子を友は島根の漁村で産んだ


またきょうもえらべないままふたをした
ななつのいろのゼリービーンズ



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ほどほどになさいませ 

愛よりもチェリーの枝が結べないほどの舌技がご不満のよう


献身も一途も無垢も貞操もメニューよりどり整いました



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おかえし 

口の中に熱の塊を感じたらニガくても飲み込みましょう


喉の奥に壊れた魂を感じたら毒。こっそり吐き出すの


残りは口うつしで返してあげる。生臭い生き方そのものを



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クレソン 

就職をした年の夏、その頃お付き合いをしていた人と
九州の、湯布院温泉を訪ねました。

雑誌のグラビアでよく見かけるような、知られた屋号の旅館は
二十歳を過ぎたばかりの
私たちに手の届くはずもなく
二人はひと月も前から、会うたびに旅行ガイドを開いては

ここにしようか
それともここは露天風呂がよさそう、少し高いけれど、と
タックシールで印をつけ合った

記憶に残っているのは
そうして訪れた一夜の宿より、むしろ
プラスティックカップのアイスコーヒーを啜りながら
小さなテーブルに広げた何冊ものガイドブックを、顔を寄せ合い
覗き込んで過ごした、蒸し暑い初夏の
カフェなのでした。

二人きりで、小さな旅をする
二人が、同じ目的を持っている
その実感が、嬉しかった


それでも夕食を終え、お湯にも入り
浴衣のまま、手をつなぎ日の落ちた小川のほとりを歩いたことは
覚えている

旧い日本映画のスクリーンに迷い込んだような
木造りの小さな橋を渡ったとき
目の下の流れの周りに
背丈の低い、濃い緑色の草が、一面に茂っているのに気づきました。

葉のかたちに、見覚えがある
小走りで舗道の石段を降り、摘んでみると、やはりそれは
クレソンでした。

小ぎれいなレストランの、美しくしつらえられたサラダの端に
よく、ひと枝か二枝
可愛らしく添えられている、クレソンは

そこでは、私でも勢いをつけて跳ねれば
飛び越せそうなほどの小川の
ゆるやかに弧を描いて見えなくなる
ずっとずっと下流にまで

こんもりと毛足の長い、深緑の絨毯のように広がって
街灯や、川沿いの旅館の灯りに浮かび
山から降りてきた風にそよいでいる


翌年の初春に、結婚をしました。
夫は十二歳年上の、会社の上司でした。

役員にも目を掛けられるほどの営業マンだった彼は
そのころの私には眩しい、憧れに映ったのかもしれません。

陽射しが長くなるのを待ちわびて、彼にねだり
園芸店に連れて行ってもらった

白いプランターを三つと、その分量の土
それからスイートバジルとアップルミントと、クレソンの種を買った

遅く起きた日曜の朝、狭いベランダにテーブルを開いて
スクランブルエッグの端に、摘んだばかりのクレソンを添える
そんなことを、してみたかった

梅雨があけるころには、小さなプランターに溢れるほどの葉が茂り
たしか一度か二度
バジルの枝を摘み、パスタも作った

彼の帰宅を告げるドアチャイムの音を待ちながら
松の実とオリーブオイルとニンニクと、そして
台所に置けば部屋中が香るほどの、みずみずしい緑色の葉束を
ミキサーでかきまぜて

けれど手すりに嵌め込まれたガラスを透けて差し込む西日を受け、伸び伸びと育つ
葉たちは
その後あまり、使われることはありませんでした。

日付が変わるころ、彼は帰ってくる
ときには、どこかでシャワーを浴びたのか
髪を僅かに湿らせ、石鹸の匂いをさせて

夏の終わり、盛りが過ぎて硬くなり始めた草葉をすべて摘み
バジルは根元から切り取ってビニール袋に詰め
友人にあげてしまった

辛い諍いをした翌朝、ベランダに洗濯物を干しに出ると
それでも、ミントやクレソンは、乱暴に切り払った株の隅に
薄緑色の若葉を開いていました。

もういいのよ、芽を出さなくて。もう、いらないから
そう呟いて、でも
かわいそうで水をあげると、枯れかけた枝の先に開いた
小さな、小さな葉は
濡れて鮮やかに、かわいそうに、光った


小ぶりだけれど、よく熟れた
トマトを買った
それだけの理由で、トマトの料理が作りたくなり
たしかこのあたりに、と
本棚に積んだままの古い雑誌から、一冊を引き出してみる

お料理ビギナーにもできる、プロの味
このごろ見なくなった主婦タレントの笑顔にそんな見出しのかかる表紙は
端が折れ、
背の部分はいくらか色が褪せていて

この七年の間に三度引越しをした。
それでも、その月刊誌を捨てずにいたのは
ただの偶然
だったかもしれません。
主婦の誰もがそうであるように、
私も、気に入った料理の載る本を捨てられない
だからきっと、その程度のことだった

手にしたとき、ページの隙間から
ぱさり、と音をたて
光沢のある紙袋が三つ、床に落ちた
ミントとバジルと、クレソン
折りたたんだ袋の中には、砂粒ほどの黒い種が、まだひとつまみ
残っていました。

手をつなぎ、小川のほとりを歩いた人はその年、留年をしました。
そして私は日毎に、OLの暮らしに慣れた

このお菓子と、こっちのお菓子、どっちにする?
どちらかに決めなさい、といわれ、私はいつも、選んだあとで
後悔をする子だった


いつの頃が始まりかは分からない
いつのまにか町を流れる小川を、湖のまわりを、クレソンが
あのように覆ってしまったのです
旅館の方が、そんなことを仰っていた記憶があります。

川沿いのレストランのお客が食べ残した、あの噛むとわずかにほろ苦い
ひと葉が川に落ち
根付いたのか

それとも、野菜を売り歩くお年寄りのリヤカーが橋を渡るとき
一束がぽとり、と落ちたのか
いまはもう、わからない

金鱗湖と呼ばれる、冷えた朝には幻想のように朝もやが立ちこめるという
林の中にひっそりと眠る湖をみなもとにして
美しい町のなかほどを静かに巡る小川には
いまも
クレソンが茂っているだろうか



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おともだちとうたってかえろう。 

またあした
げんこつやまの たぬきさん
いじめた人も壊れた人も

だいじょぶよ
おっぱいのんで ねんねして
だっこされたら 忘れられるわ



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家族の会話 

パンダは村で商人に売られたボクの妹よりずっと高い。



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夜明けは近い 

がんばればなんとかなるよ がんばれるとこまでがんばるぞ。うそ。ほんと。


とおくとおく救急車の音。眠ろう。来ないかもしれない朝まで


ほの甘きチーズスフレのほろ苦きぜんぶ食べちゃえきみの来ぬ夜



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晴れた日の見舞いには花を携え 

使い捨てじゃないのね充電式なのねウルトラマンのカラータイマー


これ以上もったいないよモルヒネは
微かに笑い友がみまかる


ほどなくあなたの電池が切れるので、スペアを探しに行ってきます。



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春にくる嵐 

「ブログの閲覧者から寄せられたコメント」

よく行くコンビニに燕が巣をかけてます。
もう一週間にもなるのですが、まだ出来上がっておりません。下手なのかな?
巣の位置が一か所に定まらず、堤防みたいに広がってます。そうとう大きな巣になるんじゃないかな!?出来上がりが楽しみです。
不器用な燕・・・自分とだぶらせつつ、微笑ましく見守ってます。


     @


答えはどこにある 風の日は 誰に聞けばよいかさえ分かりません


巣づくりの下手なツバメの不器用を
不器用な人が見上げている


@「巣づくりの」は、先日頂いたコメントから想起して生まれたものです。なお「見上げている人」は歌を詠んだ人でもあり、そこを通り過ぎる誰か、でもあるようです。無粋な注釈を加え、申し訳ありません。



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歌を詠むってなに? 

うつくしいものをあなたはみたことがない と
いわれたことがあります



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チューリップの和名は鬱金香というそうです。 

可憐なりとあなたの詠んだ花畑に 轍を刻む人の快楽


清しいとあなたの詠んだ野花にも西より来たり黄砂降り積む


菜の花の道を駆け出すランドセル 防犯ブザーが揺れてはいても


わたし
「あのね、チューリップって、日本の名前はウコンコウっていうんだって。
 不思議な名前だねえ」
むすめ
「うんこうんこ?」
・・・台無しです(汗)



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おいのり 

折れそうなときに支えてくれますか?折れちゃったときも腐ったときも


臆病なのです。なので祈るように願っているのです。ばかでしょう。


夢がなければただの不良だよって むかしの歌をラジオが歌う



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活動家のみなさま 

わたくしも たまさか潮を吹くらしく クジラとともに 保護願います



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五月の生ぬるい雨 

3の倍数でバカになるのかしら
三十歳のバースデイには


恥もなく小狡くすり寄り小賢しく生きよと啓示をいま受けました


自堕落に抱かれシーツに染みをつけ生きよと啓示を受けた気もする


罪深い?そのうちみんな忘れるよ
首をすくめて待っていたまえ



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仕返し 

OL時代の同僚に、次々に女を漁るというので、女子社員の間で
噂になった人がいました。

たしか三十代のはじめで、
結婚をして数年の奥様と、男の子がひとり。
けれどその人は、社内の女子社員にも取引先の女性にも、
年齢も容姿も構わず手当たり次第に声をかけ、
飲みに誘った。
ある朝、休憩室の掲示板に、
彼に転勤命令が出たことを伝えるコピーが貼られていました。
「やっぱりねえ」
昼食をとりながら、社員たちはヒソヒソと、
送別会もせずに姿を消した人の噂話をした。


「あいつ、苦しかったのかなあ」
苦しくてさあ、壊れちゃったんだ、きっと。彼と同期だった人の、
そんな言葉を聞いたのは、
少し後のことだったと記憶しています。

彼は、奥様が、初めての人でした。
聞かなければいいのに、でも聞かずにはいられなかったんだろう。
結婚を決めた頃、お前は、いつ、と尋ねた。
彼女は十七歳と答え、屈託なく、
あなたの前に十人、と付け加えた。

「奥さんは、そんな話をしたことなんて、すぐに忘れたんだと思うよ」
彼も、忘れたのだと思う。
忘れたつもりでいたのだと思う。
でも妻の、その屈託のない笑顔は、澱のように
心の底に沈んだだけだった。
洗い流したはずの暗い濁りは、
小さく揺り動かされれば、
ふたたびゆるゆると浮かび上がる。

「正気じゃないよ。以前は、あんなやつじゃなかった。
 それが突然、なにがあったんだろう。そこが俺にも、わからないんだ」
どちらかといえば、
営業には向かない、生真面目な性格だった。
それが始まったのは、結婚をして二、三年ばかりが過ぎ、
子どもが生まれた、
私たちの入社の前年ごろだったそうです。

「ある日、突然、仕返しをしなきゃ、って思ったのかなあ。
 奥さんに、ではなく、自分の、
 手に入れ損なった時間に。
 彼女が数えた十、という数字に、仕返しをしたかったんじゃないか」
そして手当たり次第に女を誘い、
セックスをして、
あと四人、あと三人と、指を折っていたような気がするんだ。
仕事場でこんなことをしていればねえ。
滅んじゃうでしょ。
それくらい、ちょっと考えれば分かるはずなんだけど。


関連会社の下請けに出向をした後、しばらくして辞めたらしい。
数ヶ月が過ぎた頃、彼にまつわる噂話が、
数人の社員の間でひとしきり交わされました。
例えば、
通路の自動販売機の前で。そういえば、と前置きをして。
そして翌日には、その話題を口にする人はいませんでした。

彼の仕返しは、終わったのだろうか。そんなことを気にする人は、
もう、だれもいない。

二期上の同僚も、彼と寝たという噂だった。真偽は、知らない。
その彼女から、葉書が届きました。
長男の誕生を知らせる葉書でした。
可愛い縁取りで印刷をされた写真に、ご主人に頬を寄せ、赤ん坊を抱いて微笑む、
懐かしい顔が写っています。



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9.12 

(歌詞)

あのころはクイーンズという 泥棒だらけの町の
壁の落ちたアパートに住み
郵便配達の 足音にもびくついて
ポケットのコインを数えた

ひとつ裏通りの 写真屋の娘に 出会ったのはそのころ
絹のような黒い髪 宝石のような瞳
ふたりはたちまち 恋に落ちた

パパの62年の フォルクスワーゲンに乗って
日曜日に コニーアイランドへも 行った

たしか観覧車と 輪投げゲームをした
日が落ちて手をつなぎ 砂浜を歩いた

抱きしめて 目を閉じると しあわせな気持ちにもなった
でも川の向こうに クリスマスツリーのように光る
高いビルを眺めながら ひとつ 嘘をついた


今朝、ポストに入っていた
新聞に 大きな文字
20年も前に すこし住んだ町のサイレンが 空耳のように聞こえる

川の底に 沈む記憶 あれから悪いことばかりして
一度として 人に報いた ことなどない

イデオロギーや 宗教や そんなことはどうでもいい
ただ あなたに詫びたい
ガレキの町で 錆だらけの 銃を持った子供が こちらを見ている

あなたが わたしに もう 会うことはない



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